脳はいったい何をしているのか?環境と脳の関係。
みなさま,おつかれさまです,舟波真一です。
コラムで統合的運動生成概念,本日は「中枢神経系と環境の相互関係」について考えていきます。
近未来の物語で,脳と脊髄を機械の身体に移植し,サイボーグ刑事を造り出す映画を好んでみていた頃があります。
新潟の実家近くにあった,国立リハビリテーション学院の学生時代の話しです(笑)
その当時は,娯楽としか映らなかったこの映画も,角度を変えるとさまざまな示唆を与えてくれました。
わたしは漫画もアニメも映画も好きですが,創発する方々はやはりいろいろ考えているなと思わされますね。
話しを戻します。この映画を少し別の方向から眺めてみると,脳は脳だけでは生きることが出来ない,という当たり前の事がみえてきました。
脳は,脳だけで歩くことは不可能ですよね?歩くためのカラダが必要です。あたりまえです(笑)
統合的運動生成概念を構築していくなかで,思考を一変させる言葉に出会いました。
「脳がない動物はたくさんいるが,身体のない脳はいない」
東京大学,池谷裕二教授の言葉です。2009年に朝日出版社から発刊された先生の著書『単純な脳、複雑な「私」』 に記載されています。
私は頭をハンマーで殴られるくらいの衝撃を受けました。
いや,殴られたことはないんですけれども。
神経科学を中心に運動というものを考えますと,
昨今の脳ブームも手伝って,脳が身体を制御しているという既成概念を疑うことは難しいと思います。
要素に分解して制御理論に当てはめると理解しやすいからですね。
では,脳が運動の中枢であるとするならば,動く物,つまり動物にはすべてに脳が存在しなければなりません。
しかし,現実にはこの世界で脳がなくても動いている生物はたくさん存在するのです。
身近なところではホヤの幼生やナメクジウオなどです。
ナメクジウオは,神経索は有するが脳としての分化が認められません。
つまり脳はないものの,魚のように運動して移動するのです。
ホヤも卵から孵化した幼生の段階では,脳はないがオタマジャクシのように海中を移動します。
これらからわかるのは,移動という運動に,脳は必須条件ではないという事実なのです。
では,脳からみたらどうでしょう?
前述したように,脳は脳だけは生きて行けません。
つまり,脳は身体という入れ物がなければ存在しえないのです。
脳が身体を制御・支配している,脳が偉いなどというのは妄想です。
身体というものがなければ存在できないのであれば,
むしろ脳は身体の奴隷であると言えなくもないのです。
脳で一方的に運動を制御しているのではないとすると,
脳の本当の役割は何でしょうか?
それは,身体というインターフェースを介して入力される様々な感覚情報を出力に変えるコンバーター,変換器であると我々は結論付けています。
身体感覚が入ってきて,これを脳の中で微分方程式により統合して,
その演算結果を身体運動に替えるためのコンバーター,
感覚を運動に替えるためのコンバーター,
身体を入力と出力で結ぶためのコンバーターとして脳ができあがりました。
だから,脳は,絶対に身体と結びついていなければなりません。
ゆえに,脳を含めた中枢神経系は,環境からのありとあらゆる情報を,身体を介在にして,その外力を電気信号(インパルス)に変換して受け取っているのです。
だから,身体という物質がなければ,外界からの情報入力も不可能であるし,外界に対して出力していくことも不可能ということになります。
ゆえに,身体というインターフェースが歪んでしまえば,歪んだ情報が脳には入力されてしまいます。
そしてその歪んだ入力は脳で変換されるので,出力をも歪んだものにしてしまうのです。
環境から身体が受け取るものは,バイオメカニクスで観察される外力です。
その外力を感覚受容器が電気信号に変換します。
それを中枢神経系は「感覚」として受け取るのです!
人の動き,運動を変えたければ,「感覚」という外力,電気信号を変えなければならないのです。
この事実に,臨床上,非常に大切なヒントが隠されております。
BiNI COMPLEX JAPAN 舟波真一でした。